《レビュー》英国一家、ますます日本を食べる(マイケル・ブース)日本の食の源流に触れる旅

本書は「英国一家、日本を食べる」(レビューはこちら)の続編。

著者の、三ヶ月にわたる日本を食べ尽くす旅を収録したこの2冊のうち、本書には、著者が体験を通して日本の食文化に触れる旅や、醤油・砂糖などの作り手に会いに行った話など、日本の食材についての考察や、それらの特色を比較文化論的に掘り下げた話題が中心になっている。

目次
魚屋の魚屋ー東京・築地/MSGー東京・味の素社訪問/余すところなく食べる魚ー焼津・カツオ/本物のワサビー天城山・本ワサビ/道具街ー東京・合羽橋/初めてにぎる鮨ー東京・料理教室/料理サークルー京都・オムライス/禅の対話ー京都・枯山水/失われた魂の森ー高野山・精進料理/牛肉に抱く妄想ー松阪・和牛/海女ー志摩・真珠とサザエ/世界一の醤油ー香川・27年物/フグに挑戦ー下関・ふく/南国のビーチー沖縄・牧志公設市場/世界一長寿の村ー大宜味村・豆腐よう/身体にいい塩ー沖縄・ぬちまーす/特別番外編ー兵庫・城崎温泉/エピローグ・読者のみなさんへ

今回の続編の個人的読みどころは、MSG(化学調味料。現在はうま味調味料とも)の身体へ悪影響があるという俗説を確かめるために著者が味の素社に単身で乗り込むという部分。味の素社はそういうのはもう慣れっこなのか、著者を丁重に社内の一室に通し、資料を用いて優しく説得していく。俗説の根拠の検証もせずに乗り込み、豊富な反論資料の前に著者ははぐらかされ、というか、なすすべもなしな感じ。

「なぜMSGがアメリカ人にこんなに敵視されているのか?」という著者の問いに「それが日本で発見されたものだからではないか」と味の素社側が答える場面が出てくる。MSGって、そういう感情論的な部分で敵視されているのだろうか?

間違えてはいけないのは、うま味という「5番目の味覚」と、MSGはイコールではないということだ。MSGは料理に安く手軽に味をつけられるものではあるが、そのことが「だから身体に悪い」という根拠にはならない。

少し脱線すると、うま味は甘味、塩味、酸味、苦味に続く「5番目の味覚」といわれる。これまでは、すべての物質の味は、従来の四つの味の組み合わせで説明できるとされた。しかしうま味は、そのどれを組み合わせてもうまく説明することができないという。それぞれの味覚は身体に信号として認識される。

甘味…エネルギー源としての糖の信号
酸味…代謝を促進する有機酸の信号でかつ腐敗の信号
塩味…体液のバランスに必要なミネラルの信号
苦味…動物に有害な物質を警告する信号

うま味も、動物にとっての基本的な栄養の信号――つまり、栄養源であるタンパク質やアミノ酸の存在を示すものだという。
(石毛直道「食の文化地理」による)

そのような日本ならではの食のトピックを取材するうちに、著者は、日本の伝統的な食材ならびに日本料理が末期的状況に陥っていることを肌で感じることになる。そして今回の、和食のユネスコの世界無形文化遺産登録についても「あまりにも皮肉だ」と。

そんな意識があったからか、著者は、日本の食文化の伝統を次世代に繋げる努力をしている人にも取材している。

香川の醤油「かめびし屋」の岡田佳織さんは、家業を先代から継いだあと、モデナのバルサミコ酢醸造所を訪ねたことからヒントを得て、これまでにない長期熟成の醤油(現在は27年物が最長という)を作ったり、フランス料理やイタリア料理のシェフ向けにソイソルトを作っているのだという。
醤油そのものでは料理に色がつくので使ってもらえないけれど、「うまみがたくさん詰まっている天然のMSG」として使ってもらいたいということらしい。

2013-06-27-22-48-00

そういう、日本に昔からある食材を受け入れられやすいように変容していくことで、日本の食が日本を越えて行くことに著者は希望を持っているのだろうと思う。読むこちら側としては、日本の食文化に、そのような愛を持ってくれる外国人としての著者に共感するところが大きく、それが今回の本書の売れ行きにもつながっているのかもしれない。

もう、このへん↓を読むと、著者のこの「悟り」にこちらも手を合わせたくもなろうというもの。

日本の食べ物は、日本そのものだ。過去、現在、そして未来永劫に通じる、日本の精神そのものだ。(中略)神道の精神と自然は、米と魚と味噌汁と漬物という簡素な食事を通じて豊かな文化遺産と心を通わせ、一番手っ取り早いレベルー食ーによって過去、祖先、日本の本質とつながる機会を与えてくれる。
(「エピローグ・読者のみなさんへ」)

また著者はこうも書く。
「食は、社会と文化の奥を垣間見る素晴らしい手段であるだけではない。人を歴史やアイデンティティと結びつける強い絆でもある」

食に携わる、あるいは食を愛する人間にとって心強い言葉だ。

「英国一家、ますます日本を食べる」(亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ) 
原題 ”Sushi and Beyond: What the Japanese Know About Cooking” 
マイケル・ブースMichael Booth (著), 寺西 のぶ子 (翻訳) 
亜紀書房(2014/5/刊) 
¥1,620


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