世界料理学会in ARITAで語られたこと① 器(うつわ)編

meeting_entrance

器と料理の関係性をテーマに「世界料理学会in ARITA」が、5月3日・4日に佐賀・有田で行われた。
2016年に創業400年を迎える有田焼の職人とトップシェフたちが交流し、器と料理の新たな可能性を探る催しだ。

この学会は、函館で毎年開かれている世界料理学会in HAKODATEの主催者である深谷宏治さん(函館「レストランバスク」シェフ)を名誉顧問に据えて、そこに、料理を盛るために欠かせない器という視点を新たに加えたものだ。

有田焼はこれまでも、注文に応じてプロのための器を作り続けてきた。
400年を迎える今年の節目をきっかけに、佐賀県は、この学会以外にも、フランスのインテリア・デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」への出展や海外デザイナーとの協業など、400年事業を数多く展開している。

introduction

(前列中央のマイクを持っているのが、今回の学会のディレクター秋山能久さん。(日本料理 六雁)前列右端が名誉顧問の深谷さん。)

プログラムと概要

第1日目(5/3)
開会宣言
●歴史・文化・季節が語りかける料理と皿のイマジネーション
(植木将仁 Restaurant UEKI)
●風土と創造、そして誕生と循環(梶原大輔 souRce)
●創り手の想いをお客様に料理で伝える、繋がりを作る(長谷川在祐 傳)
●One man’s trash,another man’s tresure(川手寛康 フロリレージュ)
●フランスのトレンドとARITAの可能性(須賀洋介 SUGALABO・佐藤伸一 Passage53・吉武広樹 Sola)
●料理人からの挑戦状(植木将仁・川手寛康・山本征治・原田吉泰・寺内信二・鈴田由紀夫)
●世界に誇りし日本料理 RyuGin History 2016(山本征治 日本料理 龍吟)

第2日目(5/4)
●Las Herramientas Cómplices(共謀のためのツール)(アンドニ・ルイス・アドゥリス Mugaritz
●器と料理の黄金比(小岸明寛 オーグードゥジュールメルヴェイユ博多
●contaminata(混成)(徳吉洋二 Restaurant TOKUYOSHI・寺内信二 ARITA PLUS)
●温故知新(植村良輔 料理屋 植むら)
●世界料理学会の意義(高澤義明 TAKAZAWA)
●有田焼職人からの挑戦状(須賀洋介・植村良輔・高澤義明・原田吉泰・福田雅夫・木村真季)
●器と料理のマリアージュ
閉会の挨拶
——————–
今回の学会の目的の一つは、窯元の職人と料理人の関係性を、より深めていく方法を模索すること。
両方がクリエイターであり、お互いが力を合わせて一つの世界を作り上げていく分野だとすれば、両者の相互理解は欠かせないものとなる。
今回はそれをわかりやすく見せるための、2つの双方向のイベントが組まれた。

料理人から窯元の職人への挑戦状
7人の料理人がイメージした器を、7組の窯元が一人ずつ組んで作成する。

窯元の職人から料理人への挑戦状
窯元の職人が「雨」をテーマに白い皿を作成、参加料理人23人がその同じ皿にそれぞれ料理を盛りつける。

1日目の「料理人からの挑戦状」と、2日目の「有田焼職人からの挑戦状」でそれぞれ発表された。

この前編①では主に、器を作る側の人から提起された問題をまとめてみた。

料理に合った器をオーダーする

「料理人からの挑戦状」のために器をオーダーした7人のうちの1人、植木将仁さんが有田吉右衛門窯の原田吉泰さんに注文したのは、出身地の能登の棚田をイメージした器だ。
そもそも、器はある程度いろいろな料理を載せる汎用性があるものであり、お皿を具象的なデザインにすれば使い道を狭めてしまう。今回は「作りづらい器を敢えて注文する」という企画で、それでも原田さんは、棚田を再現する器という植木さんの注文を、最初は「ムチャ振り」だと感じたそうだ。

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注文する側が器の具体的なイメージを強固に持っていればいるほど、窯元が出してきたデザインと違うということが起こりうる。座談会の中では、そんなときにどうやって着地させるかという話題にもなって、実際に器をすべてオーダーで作っている料理人さんいわく「細かくオーダーしすぎない方がよいものができる」。
こういうときはある程度、器を作る人に「預ける」方が良いということかもしれない。

プロトタイプが植木さんのイメージ通りにならず何度かダメ出しを受けた原田さんは、やりとりをしていくうちに、九州の棚田と植木さんがイメージする上越の棚田の構造の違いに気づき、「求められているのは皿を作ることではなく景色を作ることだと気づいた」という。

お互いが、それぞれ持っているイメージに近づけられるように意見をすり合わせていく、手間のかかる作業だ。今はそれでも、3Dプリンタでデータを吐き出すなど、双方向のやりとりは離れた場所でも便利になっているそうだ。

そもそも、特定の料理のために器をオーダーするというのが、現時点ではかなり特殊例といえる。
このような手間のかかるやり取りは、良いもの、満足できるものができるかどうかはパーソナルな部分に左右される部分が多く、既製品をカートに入れるような便利さ、効率の良さとは対極にあるものだ。

オーダー品を採算ベースに乗せるには

このような作業を採算にどう乗せるかということも話されていて、課題はいろいろあると感じた。
最終的にクオリティの高いものが出来ても、100単位の小ロットでは採算ベースに乗せるのは難しいからだ。

現在の有田焼の全体の売上高は、最盛期の1/8になっているのだそうだ。
磁器がありふれたものになり、安く済ますなら100均ショップでも可能な今日、プロユースの器を以前から作ってきた有田焼は販路を海外へ求める模索が行われていて、実際に引き合いもある。フランスの2つ星3つ星のレストランでも実際に使われている。
ただし、販路やメンテナンス問題と価格など、クリアすべき問題は多い。
「くらわんか碗」で有名なお隣の波佐見焼などと差別化する必要もある。

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(写真左から、鈴田館長、植木さん、山本さん、寺内さん、原田さん、川手さん、末村さん)

座談会のなかでは、「料理人さんからの注文で作ったデザインを一般に売れば最終的にコストダウンになるのでは」という意見が出た。
これは器に限らず、コンテンツを生み出すすべての業種にとって共通の問題でもあると最近個人的に思う。

他と違うことを重要視するクライアントから、オリジナルのコンテンツの製作を求められる。
その少量多品種製作に応じていると、どうやっても業務量が増大してしまい、売上げにつながらない。後日一般販売することを最初から意図して、製作料のコストを下げる契約をしておくのは解決策の一つではあると思う。

ただし、「一般化してしまうとアイデアが陳腐化していかないか」(鈴田館長)という問題はある。その解決策として考えられるのは、「オーダー品はその後の注文を呼び込むための先行投資」という考え方だ。「一般化されて多くの人の目に触れることで、別のお客さんから別のオーダーが来る」(寺内さん 李荘窯)。
なるべく多くの人の目に触れることこそが重要だという発想だ。

今回料理人からオーダーを受けたARITA PLUSは、2015年に、有田焼産地の7軒の窯元がプロユース用の食器を国内外で商品開発・市場開拓するために結成した事業体だ。
(吉右ヱ門製陶所・末村窯業・徳幸・原重製陶所・福珠陶苑・やま平窯元・李荘窯業所)

窯元さんには窯ごとの得意分野があり、どんなオーダーが来てもその中でアイデアを出し合って対応していくのだそうだ。これまでのように、オーダーを受けるために窯元ごとの技術で「争う」のではなく、技術を「出し合う」という横の発想。

「技術をオープンにしようと思い始めたのは、料理学会の精神を知ったことがきっかけ」(徳永さん 徳幸窯)なのだそうだ。

スペインやイタリアなどで毎年行われている料理学会では、登壇するトップシェフたちが、自分の料理技術を惜しげもなく出し合う。そうやって、技術や知識を囲い込むのではなくオープンにする流れは、料理以外でも見られる傾向だ。

技術をオープンにして、1軒1軒での競い合いを超えて、有田焼産地全体の競争力をつけたいという発想は、有田焼が500年、600年と続いていくために、今後いっそう求められていく考え方かもしれない。
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後編「世界料理学会in Aritaで語られたこと② 料理編」に続きます。

『明治有田超絶の美』は、座談会のコーディネーターで登壇された九州陶磁博物館の鈴田由紀夫館長の著作。

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