Restaurant KEI(パリ) 動いてゆくもの

ダイニングに一歩踏み込んで、一瞬、何か想像と違うものを感じた。
サンルイの豪華なシャンデリア、銀の鈍い光が全体から滲み出したような内装。
あとで、この日が冬のバカンス明けの初日で、バカンス中に内装に少し手を入れられたことを知る。カーペットや壁の色を、白から落ち着いた薄紫に変えたのだそうだ。だから、ダイニングは写真で見ていたにもかかわらず、初見という気がしたのだ。

内装と対照的に、料理から感じられたのは男性的な感じ。ダイナミックさ、というのか。動いている感じ。

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例えばこのようなサラダの泡の上に、乾燥オリーブを目の前でパラパラッとかけるとか、魚料理の最後の仕上げに、目の前でコブミカンの皮をささっと削るとか。(柑橘の皮を最後に削るって、寿司では当たり前だけどフランス料理ではあんまりないかも?)
いや、そういう、目に見える動きだけでなく、料理そのものからも感じられる。

スタティックさでなくダイナミックさ。えいやっとぶん投げる、と書くと粗雑な感じだけど、全くそんなことはなく、むしろ感じられるのは精密さで、ダイナミックな感じはそれとは別のところにある。

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例えばスズキ。
皮目パリパリの軽やかさはもう、捨てる”皮”じゃなくて何か別のもの。スズキの皮目パリパリは小林シェフの料理としてたくさん写真を見た気がするけれど、目の前のこの皿はそのどれとも違う。

スズキのアクセントは、皮の上の微量のシトロンキャビアと、目の前で削られるコブミカンの皮。華やかな香りと、無骨な見た目と、目の前で生まれるコブミカンの鮮やかな緑色の破片。魚の下はコブミカンの葉で、柑橘のラインを繋ぐ。
ソースは2種の柑橘しかも固形だけだ。すごいなあ。

この柑橘の使い方、日本人の発想ではなく、ほとんどフランス人の発想のように思える。食材への慣れを排し、柔軟に食材を見る目がないと、こうはならなさそう。日本人には逆に難しいアプローチなのではと思う。

小林シェフの料理はきっと、どんどん変わっていく料理だ。
いわゆる「スペシャリテ」が無いーー開店当時から、あるいは、これまでにもう数え切れないほど作り込まれていて、失敗の余地なく、完璧さがにじみ出ているひと品ーーがなく、料理はみんな少しずつ進化させ続けているのではと思う。
あとでシェフのインタビューなどを読むと、その印象はあながち間違いではなかったようだ。

メニューが動いているというか、作り込む前にメニューをどんどん進化させているのかな…という印象。
食材や調理方法の可能性をこれまでいろいろ試してきた過程が、ひと皿の中に見えるようだし、これからもどんどん変わっていくんだろうな…と感じられた。

というのは、この素材にソースがコレでこの量ってホントにベスト?と思わせるものも正直に言えばあったから(おいしくなかった、という意味では決してなく)。スズキやメインの鳩のように、もう完璧に完成されて何も付け足せないような料理があることを考えると、進化の途中と考えれば納得がいく。
足繁くここに通って、その過程をつぶさに追うことができるならば、どんなに楽しいだろう。

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メインのヴァンデ産鳩はドゥミソバージュ(半野生。昼の一時期に外に放つらしい)で、肉質は家禽、脚周りのしっかりした筋肉の弾力と旨みはジビエという、家禽とジビエ両方の良さが感じられる。

シェフは素材選びにはものすごくエネルギーを注いでます、とはサービスのかたの話。最初から最後まで日本語で説明して頂けた。
この日は日本人客半分、フランス人客半分。日本人には日本人が説明、フランス人にはフランス人が説明しているようだ。食材や調理法は外国語だとどうしても母語に比べ理解度がはるかに下がってしまうから、この配慮はとても嬉しい。

このメインは、鳩の肉の味はもちろん、添えられた4つの”ソース”ーーサルミと、ベリー系コンフィチュール2種と、砂糖煮した葡萄ーーの、4つの要素が、酸味・甘みでとてもきれいにグラデーションを描いて繋がっているように感じられて、忘れがたかった。

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あと、これも。ジャガイモ(ポンパドール種)のニョッキと黒トリュフ。ニョッキのねっとり感がジャガイモとは思えない。脊髄反射で食べてしまったひと皿。

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この日は年末特別メニューで、10品145ユーロ。

Restaurant KEI
5 Rue Coq Héron, 75001 Paris
tel:+33-1-42-33-14-74
予約は電話で。日本語可。


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