《レビュー》フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠(マイケル=モス)

あなたは、これらのうちで当てはまることはあるだろうか?

・喉が渇いたときは濃縮還元ジュースを飲む。「天然」とうたってあるし、清涼飲料水よりは健康にも良さそう。
・袋入りのスナックは、開けたら全部食べる。
・霜降り肉は脂が多そうなので、赤身肉を選んで食べる。

これらに心当たりがあるあなたは、すでに「フード・トラップ」にどっぷりはまっているかもしれない。

本書は、アメリカ政府を始め、食品会社、研究所などへの膨大な調査と取材によりまとめられた、500ページを超える「ひとつの物語」である。

目次
第1部 糖分 SUGER

|第1章|子どもの体のしくみを利用する
|第2章|どうすれば人々の強い欲求を引き出せるか?
|第3章|コンビニエンスフード
|第4章|それはシリアルか、それとも菓子か
|第5章|遺体袋をたくさん見せてくれ
|第6章|立ち上るフルーティーな香り

第2部 脂肪分 FAT
|第7章|あのねっとりした口当たり
|第8章|とろとろの黄金
|第9章|ランチタイムは君のもの
|第10章|政府が伝えるメッセージ
|第11章|糖分ゼロ、脂肪分ゼロなら売り上げもゼロ

第3部 塩分 SALT
|第12章|人は食塩が大好き
|第13章| 消費者が求めてやまない素晴らしい塩味
|第14章|人々にほんとうに申し訳ない
|エピローグ|我々は安い食品という鎖につながれている

ページをめくるたびに、まさにミステリー、「物語」と言いたくなるような、できれば知りたくなかった食品会社の、加工食品を売るためのノウハウがこれでもかと登場する。

「至福ポイント」という言葉が出てくる。
食品に加える糖分は、少なすぎてはだめで、多すぎても飽きる。人間が最も好む糖分の割合を、食品会社は膨大な計算と研究とマーケティングによって知り尽くしている。糖分は、エネルギーを摂取しなければならないという身体の欲求と、強迫的に「もっと摂りたい!」という興奮を引き起こすという。食品会社は、どうすれば人々の強い欲求を引き出せるかに苦心している。そのために研究所に出資し、自分たちに都合の良い事実を結果として作ってもらうことすらある。次回、スーパーやコンビニに行ったときに、加工食品を買うのにためらいと恐怖を感じるには十分だ。

それから、食べ物に向かう人間の習性も計算しつくされている。驚くことに、糖分摂取において、素早く口の中で溶ける食べ物はカロリーがないと脳で判断されるという。本書では「カロリー密度消失」という言葉で呼んでいたが、清涼飲料水など、糖分があまりに早く身体をすり抜けてしまうため、エネルギーを補給して空腹感がいやされるべきところ、甘い飲み物を飲むとヒトの食欲は「増す」のだという。

食品会社は、糖分に限らず、塩分・脂肪分の3つを食品会社は駆使し、至福ポイントを探り当て、誰よりもうまく大規模に実行することにしのぎを削っている。

しかし、前提として確認しておきたいのは、食品会社も、消費者に悪い影響を与えようとしてそれらの食品を作っているわけではないということだ。90年代後半ごろからは人々の体重増加に危機感を抱くようになったし、糖分や脂肪分や塩分を敬遠する消費者にこたえる商品も作ってきた。しかしそれは、あくまでも企業の利益拡大のためなのだ。

冒頭で出した濃縮還元のジュースは、皮をむいて煮詰めて加工し、すでに砂糖より糖分の多い果糖だ。エネルギーも甘味も砂糖より多い。

袋入りのスナックは、それを適切な量でやめれば問題ないだろう。しかし、だいたい、1食のカロリーよりも多い袋スナックを、途中でやめられる人がどれだけいるだろうか?

赤身肉は、脂肪摂取源として大きな割合を占めている。「医師たちが心配する飽和脂肪酸を最も大量に我々の身体に持ち込んでいるのはチーズと赤身肉である」という。脂肪分を減らした赤身肉は「とても食べられない」。脂肪分10%の肉100gに含まれる飽和脂肪酸は4.5gで、1日の上限の1/3近く。しかし、その「脂肪分10%の肉」は、ふだん私たちが「肉と聞いて思い浮かべるものとはかなり違う」という。

筆者は農務省も取材している。政府は国民の健康と、食品メーカーの両方を守り育てる義務がある。しかし、両者の利益は大きく食い違う。そして、食品に対する健康上の規制は、食品会社に甘くなりがちなのだ。

筆者は「最終的な選択権はわれわれの手にある」と述べる。
本書は、加工食品抜きではもはや生きられなくなった私たちに、「何を買うか、どれだけ食べるかを決めるのは私たちである」ことを教え、実態を見る手助けをしてくれる。

「フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠」
(原題「SALT,SUGER,FAT」)
マイケル=モス著 本間徳子訳
価格 : 2,160円(税込み)
ISBN : 978-4-8222-5009-6
発行元 : 日経BP社
発行日 : 2014/06/09


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