星のや東京ダイニング 名前のない料理

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最初に目の前に置かれたお椀は、黒と黄色のサイケな彩りだった。
この皮、どこかで見たような覚えがある。
これなんでしたっけ?

「ウツボです」

ウツボ!食べるのは初めてだ。

ウツボの味は、魚というよりは、鶏や豚など獣肉の団子に近い。
いかつい顔の魚・・・カサゴ、アンコウ、オコゼなどとなんとなく似ている。
スープはウツボだけでとったコンソメ。ムースはウツボの骨と肉、皮の裏にはコラーゲン質がきれいに載っている。
淡白でない。強い風味なのに、びっくりするほど、雑味がない。

星のや東京ダイニングのシェフ、浜田統之さんの名前を一躍有名にしたのは、2013年のボキューズドール世界大会の3位受賞だ。
特に、魚部門では第2位のフランスを引き離して1位だったことも話題になった。

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写真;Value Press

すべておまかせのコース料理。
今回のメニューは、浜田さんが「前日新幹線の中で考えた」という即興料理で、メインまでほぼすべて魚。海産物と野菜。定石はない。前菜からメインへ、軽いものから重いものへという流れではなかった。
メニューのない料理。
次に何が出てくるか想像がつかない。

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五つの意思
浜田さんが以前料理長だった「ブレストンコート ユカワタン」時代からのもの。
5つの石は、冷たい石が3つと温かい石が2つ。五つの味(酸・甘・ 苦・辛・旨)が象徴されているのだそうで、サクラマスのタルタルや桜エビのクリームコロッケ、桜餅など、これだけでコース料理に見立てられそうな、視覚的に美しい組み立てだ。
作り込みが細かく、味はしっかり目、ほかの料理とコントラストをなしている。

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馬のタルタルにウニ、わさびのクリーム
今回のコースでこれがほぼ唯一の「肉」。
馬肉の脂のうまみ+ウニのアミノ酸的なうまみに差し込まれた、付け合せの”ふけっぱー(ふきのとうの酢漬け)”。
ふきのとうの苦味が残されていて、ケッパーを置くよりも肉のうまみを強調している。
青色が、補色のクリーム色を引き立てるような感じ。

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キンキ、キンキの肝、葉ワサビの葉と花
こちらも、魚のうまみに山菜の苦味の組み合わせ。
甘みは金柑。キンキをわずかに焦がした部分の香りがあとで追いかけてくるのが、全体の味わいを複雑にしている。
葉ワサビは生と軽くゆでたもの。
アクは抜きすぎず、辛さやえぐみも残されている。
苦味のあとに残るうまさ。

そういえば、ここまで、ゴージャスな食材がほとんどないことに気づいた。
いや、キンキは高級魚なのでゴージャスなのだろうけども…なぜか、これはすごい贅沢な食材だなあ…という感じを受けない。
それなのに、食べたときに食材の力や豊かさが強く感じられる。

浜田さんは、あまり市場に出回らないような、「あまり流通していない魚」を出すことが多いそうで、前回の1月訪問のときは、エノハの稚魚を素揚げしたもの、鰹のかまなどが出たことを思い出す。
星のや東京ダイニングのレイアウトはすべて個室のようで、同じ日のディナーでも、テーブルごとに全く異なるものが出ることも珍しくないという。

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三重の岩牡蠣、熊のラルド、ピパーツ
岩牡蠣は椎茸の煮汁でポシェされている。
上に載った熊のラルドは塩漬けされたもの。その上に茗荷とピパーツ(沖縄の胡椒)の香りが載る。
うまみと、酸味・苦味と、鼻から感じる香り(ピパーツ)と、喉から抜ける香り(茗荷)。階層の異なるそれらが時間差をもって喉を落ちていくときに、複雑さと豊かさが生まれる。

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オオアジ、アマドコロ、山ウドのスライス
アジはアジでも、「100本あったうちの1本」のオオアジらしい。
いつも食べているのと同じアジとは思えない。
あまりにも素材が良くて、通常の山菜ではバランスがとれず、この時期しか出回らないアマドコロが付け合せになったそうだ。

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百合根のムニエル
ここから、突然、フランス料理になった。
ほくほくの百合根を箸で割った瞬間に立ちのぼるバターの香り。長時間アロゼされたものなのだろう。
時間そのものを食べているような感覚がする。
付け合せはこちらも山のもの、長野のウワミズザクラの葉の酢漬けと実。
ウワミズザクラの実は、このサイズで収穫に適当な時期が年に3日しかなく、これより大きくても小さくても、この繊細さが出ないという。
バターに酸味+苦味の組み合わせがこれほど合うと思わなかった。

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鯨のソテー
鯨のサルミソース、柚子胡椒が入っている。
これが最も直球、サルミソースだけお代わりしてしまった。

八朔と葉ワサビ、ナスタチューム

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浜田さんはこれまで、特定のシェフやレストランに師事したことがないのだそうだ。フランス料理と日本料理を自由に行き来する独特の浮遊感と、誰にも似ていない料理の感じはそこからくるのだろう。

フランス料理でもあり、日本料理でもある。
それは思わず隣の人の肩をたたいて「うまいねこれ~!」と喜びを大きく表すものでなく、「これ、いい味だね」と、声をひそめて言い合いたい料理。そうしないと料理の良さが逃げていきそうな気がする。
浜田さんの料理は、そうやって、テーブルをともにする人と喜びを静かに分かち合いたいような楽しさなのだ。

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星のや東京ダイニング
東京都千代田区大手町1丁目9−1
ダイニング専用 03-6214-5155(13〜17時)

星のや東京ダイニング利用は、基本的に宿泊客のみ。
一日ひと組は宿泊無し食事だけの予約を受けている。
予約は電話で。2か月後の月末までの予約受付可。
(4/1の予約で6/1-6/30の予約受付)

刊行されたばかりの専門料理5月号の表紙は星のや東京のテーブルセット。料理がない、まるで留守模様のような表紙。(料理は本誌の方に載っています)
増井千尋さんの浜田さん本(↓白い本)はAmazonでは品切れですが、星のや東京に在庫があるそうです。

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