走り続けるnoma

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さて、今回の旅、北欧編 真打ちの一軒。

わざわざヨーロッパまで行って前回行ったレストランにまた行く理由はいろいろあるだろうが、一番多いのは、前回の良い印象を再確認するためだろう。そこには、前回と同じものを期待する心理がある。
しかしここに来ると、それは裏切られることになる。
もちろん良い意味でだ。

私自身のnomaの訪問は、2012年5月以来2度目だ。
料理はこちらも(Faviken同様)、方向性が驚くほど変わっていた。

理由は2つ。

一つは、noma Tokyoの影響。
もう一つは、北欧という地域を思い起こさせる純粋でシンプルな食材を用いるnomaの開店以来の料理の形態が、より進化、複雑化していたことだ。

noma Tokyoは、今年(2015年)1月〜2月の約50日間、nomaがデンマークの店を閉めてスタッフ全員で来日し、日本の食材を用いてnomaの料理を展開したイベントだ。レネ・レゼピシェフを始め主要スタッフは、事前に何度も食材探しに日本を訪れたと聞いた。

今回の料理の中には、noma Tokyoと同じメニューが幾つかあった。

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あん肝のスライス。
凍らせたあん肝を極薄に削っている。ひんやりねっとりしたあん肝と、下の極薄のパンの食感の対比が楽しい。東京発メニューながら、こちら北欧でもアンコウは獲れることでメニューに入ったようだ。

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発酵黒にんにくのシート。
裏に酸味のあるエキスを塗るなど、少しアレンジされているが、こちらも東京のとほぼ同じらしい。写真で見た印象より食感がねっとりしている。にんにく特有の鼻血が出そうなほどの旨みが、発酵させることで甘さに変わっている。食材の豊かさと強烈さを、比較的、前面に出した料理だ。

これら東京発のメニューが意味することは何か?
つまりnomaの他国への出張イベントは、その国や地域の食材を仕入れて現地のイベントで提供するという単純なものではなく、その後北欧の食材でアレンジされ、あるいはほぼそのままの形で本店の料理にフィードバックする目的があったということだ。その目的が先だったのか結果そうなったのかはわからないが、事実としてはそういうことだ。

レストランをいったん閉めて海外へ移転し、そこで得たことを自店の料理に生かすというやり方は、これまで世界のどこもやって来なかった新しい方法だ。世界1位というネームバリューと、企画力と資金調達力、Webで逐一情報を発信できる時代環境など、複数の条件が組み合わさって初めて実現したことともいえる。
同様に、イギリスのミシュラン3つ星レストラン「Fat Duck」も、今年2月から(本店の改装の期間中に)メルボルンへ半年間移転しており、それが世界的にネームバリューのあるレストランの、今後の流れの一つになっていくのではないかと思う。
noma自身も、同様の企画の第2弾として、来年1月からののシドニー出店をすでに発表している。
オーストラリア大陸には知られていない食材がまだ多くあり、それを発掘したいという狙いがあるそうだ。

もう一つの違いとして感じた、食材の用い方がより進化、複雑化していたことについて。
前回、例えばパインツリー(松葉)をほぼそのままの形で用い、食材としての旨みの乏しさを、逆に北欧の食材のシンプルさと精神性の現れとして表現しているように感じられた料理が、今回は、それぞれの食材により手が加えられ、複数の食材の意外な掛け合わせや、一つの食材の複数の調理法(焼く、蒸す、生の調理法で一つの皿に盛るような)によって、より料理のおいしさ、味の豊かさを追求しているように感じられた。
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(2013年訪問時の料理)

今回と前回の違いとして目立った食材の一つが昆布だ。
ダシをとったり、食材そのものとしても多く使われていた。日本料理の影響はもちろんあるだろう。

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グリーンピースと昆布、クリームチーズ
茶色の縞模様のものが昆布。ホタテの出汁で煮た幅5mmくらいの昆布を十数本隙間なく敷き詰めてある。下には(写真には写っていないが)軽いクリームチーズ。グリーンピースの上にはタイムが香りを添えている。グリーンピースは薄皮まで剥いたあとでサイズの異なる粒は除かれている。調理スタッフとは別の30名ほどの無給の研修生がいるからこそできる、手間のかかる料理ともいえる。

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玉ねぎのロースト
直火で皮ごと焼いてそのまま出したように見えて、奥の部分だけ横に包丁を入れ、そこだけ酸味を加えて焼いてある。外の皮の焦げ目と、中の玉ねぎそのものの甘みと、芯の部分にだけ加えられた軽い酸味のうまみ3層構造。

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夏野菜をさまざまな調理法で
生野菜、蒸し野菜、焼き野菜がランダムに敷かれている下には、ホタテ味のペーストが薄く塗ってある。野菜にペーストを塗りながら手で食べる。手で食べる動作はプリミティブな感情を呼び起こすが、味は複層的だ。

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バターナッツかぼちゃ、野生の薔薇の花びら、キャビア、大麦のソース
今回最も印象に残った料理の一つ。
発酵させた大麦をベースにバターでつないだソースはこくがあり、平らな皿に盛ればそのままフランス料理の一皿だ。かぼちゃはかなり硬めに煮てある。
北欧料理らしさは、前日に森で摘んでくるという野生の薔薇の花びらか。薔薇特有の香りは淡く、かぼちゃやソースの過剰なほどのうまみを削ぎ、逆にいろどりを足す役目をしている。

70年代のスペイン・新バスク料理の集会で出されたステイトメントをモデルに、北欧で10箇条の「新しい北欧料理のためのマニフェスト」が採択されたのは2004年のこと。それから6年後の2010年、ベストレストラン50のランキングでnomaがエルブジを退けて1位を獲得し、そのことが、nomaを初めとした新北欧料理を世界的に注目させるきっかけとなった。

それから5年、スペイン、北欧の”その次”は南米という声もあり、実際に注目されているレストランもあるのだが、今回3年ぶりに訪れた率直な感想としては、nomaは、企画力と、実行力と、規模が抜きん出ていて、しかも味と両立させている。北欧の数あるレストランの中でも、他店と明らかに一線を画して存在感がある理由は、そのへんではないかと思う。

今回感じたnomaの料理の進化からは、人間がはるか昔に、食材をシンプルに加工したところから出発し、時代が下るにつれて豊かで複雑な味に発展していった料理そのものの歴史を、早回しで目の前に見せられているような気さえした。

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noma
Strandgade 93
DK-1401 Copenhagen K
http://noma.dk

予約サイト(→こちら 毎月上旬に3ヶ月後の1ヶ月分の予約受付)
予約方法(→2015改訂。拙ブログ内記事どうぞ

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