michelintokyo2022

ミシュラン東京2022を読み解く 15年の節目に変わったミシュラン

MICHELIN TOKYO 2022表紙

2021年11月30日(火)、15年目のミシュラン東京2022年版が発表になった。

今年も昨年に引き続き、書籍の発売に先駆け行われていた出版記念パーティーの代わりに、ビデオでのオンライン発表となった。

対象地域は昨年と同じ東京のみ。すべて東京23区内。(都下は無し)
横浜・川崎・湘南地区はすでにwebでも掲載・更新を終了している。

全店検索(ぐるなび海外版)

ミシュランタイヤ株式会社のプレスリリース

 

結果をざっくりおさらい

今年も、店舗名をExcelに流し込んで昨年・一昨年のデータと突き合わせた。
(検算はしていますが、もし間違えている箇所がありましたらご一報くださると助かります)

◆軒数(カッコ内は軒数昨年比)

3つ星 12(±0)

2つ星 41(-1)

1つ星 150(-7)

◆異動集計

◆★★★新3つ星 なし

◆★★新2つ星 3軒
アサヒナガストロノーム
日本橋蛎殻町 すぎた
クローニー

◆★新1つ星 21軒
1つ星は、21軒が追加された。(降格分は後述)
21軒のうち20軒は新規掲載、1軒はビブグルマンから昇格。

《新規1つ星 21軒》
デンクシフロリ
WASA
車力門 おの澤
フロレゾン
鮨 こじま
天ぷら やぐち
ノル
ラルジャン
エスト
セザン
ヌー トウキョウ
茜坂大沼
鮨 将司
鮨 まつうら
鮨 龍次郎
空花
天 よこた
西麻布 大竹
伯雲
炎水
中華そば 銀座 八五(ビブグルマンから)

◆新ビブグルマン 35軒
新規搭載軒数は、昨年も一昨年も35軒で同じ。
主なところでは(主に西洋系)…

ビストロカニッシュ
キノシタ
グラシア ガストロバル デ バルセロナ
ビストロ ネモ
REI
roku
エタップ
sugahara
Neki
canade
洋食ビストロTOYAMA
ロッツォ シチリア など35軒

※新規35軒のうちの1軒「中華そば 堀川」(目黒区)は1/22にウェブ版から店舗情報が削除されたことが判明した。1/21発売の週刊誌で、店主が従業員を暴行し逮捕されていたことが報道された。店主は20日間の勾留後、体調不良だったと偽り店を再開していた。削除された理由は書かれていないが、ビブグルマン剥奪と考える方が妥当だろう。

◆ミシュラングリーンスター

追加8軒(合計14軒)

◆個人にあてた賞を初めて設定

メンターシェフアワード 神田裕行さん(かんだ)
サービスアワード 荒井麻友香さん(オマージュ)

◆料理カテゴリ

36項目(昨年-2)

◆対象外・降格の店

★★★3つ星
異動なし

★★2つ星
(2つ星→対象外へ 2軒)
麻布 幸村
宮坂(移転によるもの)

(★2つ星→1つ星へ 2軒)
ル・マンジュ・トゥー
おかもと

★1つ星
(1つ星→対象外へ 27軒)
赤坂 きた福
東家(閉店)
アジュール フォーティーファイブ(シェフ交代)
シェ オリビエ
不動前 すし 岩澤
銀座 いしざき
豪龍久保(移転)
ひろ作
いちかわ
くろ﨑
ローブリュー(ビブグルマンへ)
ル・ブルギニオン
メゾン ポール・ボキューズ
南雲
小笠原伯爵邸
御座敷てんぷら 三ツ田
ピアット スズキ
厲家菜 銀座
センス
新宿割烹 中嶋
シグネチャー
鮨 福元
鮨 一新
鮨 由う
山﨑
四谷 うえ村
尹家

ミシュランを読み解いてみてわかること

 

ミシュランは、セレクションの動向から何が読み取れるかについて表明することはない。
しかしガイドブックを丹念に読み込めば、行間からわかることはいろいろある。
それを今年もここで読み解いてみたいと思う。

リストを見ての雑感(主に西洋料理)

  • 昨年、コロナ禍による長期休業で「調査できない」という理由を明記された上で1つ星にとどまっていた「シグネチャー」と、同ホテル内「センス」が今年はそろって星を失った。どちらもマンダリンオリエンタル東京のレストラン。
  • 変わってというべきか、今年は新規開業の「エスト」と「セザン」がそろって1つ星を獲得。エストはフォーシーズンズホテル東京大手町、セザンはフォーシーズンズホテル丸の内東京。マンダリングループとフォーシーズンズグループはホテルレストランの明暗を分けた。
    セザンは周囲の人の評価がとても高く、12月に刊行された『東京最高のレストラン』(ぴあ)でも、今年の最も優れた店として手厚い批評が行われている。

  • cronyとアサヒナガストロノームが2つ星へ
    crony、昨年東麻布に移転してからの周囲の方々の評価がとても高く、料理写真だけでもこれまでとかなり方向性を変えてきたのが感じ取れたので、順当な結果と思う。

  • ローブリューがビブグルマンへ、そしてル・ブルギニオンが星を失った。
    櫻井信一郎さん61年生、菊地美升さん66年生。多くの新たな才能を輩出したグランシェフといってもよいお二人から星が失われたのは残念だ。変わらなさが仇となったのだろうか。
    また、北島亭コートドールアラジンにはほぼずっと星がなく、ミシュランはこれらグランシェフの店の評価をあえて避けているのではないかと思えるほどだ。
    店側が掲載拒否しても、店舗情報だけは載る内規になっていると聞いたことがある。

  • 今年星が来るか個人的に注目していた店
    予想通り1つ星が来た「ラルジャン」「エスト」「セザン」。
    逆に星が来なくて最も意外な感があったのが「エラン」。
    エスキスでスーシェフをつとめた信太竜馬さんの料理は、フランス料理らしい華やかさと料理技術を兼ね備えていると感じた。星が来ない理由が全く思いつかなかった。

  • 昨年から設定されているグリーンスター
    今年は6軒が追加された。
    環境のために「それぞれ持続可能な取り組みを実践している」(プレスリリース)ことが評価されている。
    つまり、何か一定の基準というより、何かをしているかが重要視されているらしい。
    これは言ったもの勝ちの側面もなくはないが、ミシュラン側もそれは織り込み済み、ディレクターのグウェンダル・プレネック氏は「私たちの夢はミシュランガイドに載っている全てのレストランにグリーンスターが付くこと」と取材に答えており、すべての店に何らかの環境のためのアクションをうながすという企業姿勢のあらわれなのだろうと思う。

2つ星に昇格したcronyのデザート。コースの最初に提供されたお茶の葉を練り込んで作られた「抹茶の玄米茶のアイス」

メゾンから人へ

ここから先は、セレクションでの個々の店舗ごとの評価の感想から少し離れて、ミシュラン全体の評価軸として今年感じたことを書きたい。
独断の色が強いものではあるが、いち読者の感想としてお許し願いたい。

 

プレスリリースにもある通り、今年から個人にあてた賞が初めて設定された。
日本では初めてとあったが、海外ではあるのだろうか?
東京独自かと思われるこの賞、各賞にスポンサーがついていることも明記されている(セレクション自体はミシュランが行っている)。
書籍には個人賞の記載がないことから、地域的、期間的にも限定的なものなのかもしれない。

 

料理の評価は皿の上だけと明言し、シェフ個人ではなくあくまでメゾンとしての評価というスタンスを維持し続けていたミシュランから初めて出た個人賞として、意外な感じを持ったのは私だけではないだろう。

この、シェフや飲食店で働く「人」の顕彰という視点は、この賞の設定だけではなかった。
書籍版にある店ごとの総評も、今年は変わっていた。

昨年のこの記事で、店ごとの総評がほとんど一字一句変わらない店が多いと書いた。

昨年新たに3つ星になった茶禅華ですら、2つ星時代の総評から変えたのはシェフの名前を追加したことだけだったのだが、今年は、昨年より多くの店舗の記事が新たに書き直されていた。

最も大きな変更点は、多くの店にシェフの名前が明記されたことだ。

昨年まではおそらく、シェフの名前を入れるのは3つ星だけという内規があったと思われる。
それが今年からは1つ星の店にも、シェフの個人名が入るようになった。

ミシュランの各店舗ごとの総評は約140字。
これまで「主人は」とか「シェフは」とあった部分にフルネームを入れる。
字数が限られた誌面では、その2文字か3文字の増量であってもかなり調整が必要だったことだろう。

ただし、どの店も、「主人は」とか「シェフは」とあった部分に、単に個人名を置換するだけですむわけではない。
なぜなら、主語が個人名になったとたん文章がリアルになるので、全体的に書き換えないと文全体が不自然になることがあるからだ。

  • A「主人は、信条として食材を尊重し、自然に寄り添う。料理は~」
  • B「田中一郎さんは、信条として食材を尊重し、自然に寄り添う。料理は~」

このBの例のように、主語として個人名が入ると、読み手の脳内にはだれかわからない「主人」ではなく、具体的な「田中一郎さん」という像が結ばれる。
そうすると、そのあとの文章も、店の、というよりシェフ個人の営為に沿った文章になる。というか、そう読めてしまうのだ。
文章はリアルに具体的になる。総評の物語化といってもいいかもしれない。

 

メゾンから人へ。
個人的には、それがいまの時代にありうべき方向だと思うし、今後もますますその傾向は強まっていくと思う。

今回、個人の賞が設定されたこととあわせて、ミシュランは「個人」を顕彰する方向により寄ってきたと感じた。
単に、シェフの名前が入った、個人への賞が設定されたというだけでなく、ミシュランの評価の姿勢の本質にも関わってくる問題ではないかと思ったのだ。

 

そこで疑問が生まれた。

ミシュランはそんな方針転換を明確に意図しているのだろうか?
おそらくそうではないだろう。

とはいえ、いまレストランが評価されるときに、店そのものがどうかではなく、シェフが誰かが重要になっているケースの方が多いと感じる。

シェフが交代すれば評価もリセットされることが多い。
昨年シェフが交代したスブリムしかり、アジュール45も同様だ。特に後者はホテルレストランという比較的大きな母体でありながら、やはり、昨年退職された宮崎慎太郎さんや宮島由香里さんの個人の力が大きく評価されていたと言える。

だからといって、ミシュランはそちらに舵を大きく切らないのではないかと思う。

その理由はゴ・エ・ミヨの存在だ。

ゴ・エ・ミヨは「レストランや料理店を支える人々を顕彰してきた」ガイドブックだ。
書籍の巻頭言「編集部より」にもある通り、「人を顕彰する」のがそもそもの出発点なので、「今年のシェフ賞」をはじめ、若手やサービスに関わる人々や生産者の顕彰を刊行当初から行ってきたし、店の講評も、ミシュランよりも字数を割いて行っている。
文字数は点数にもよるが、1軒につき約500字くらいだ。

ミシュラン140字対、ゴ・エ・ミヨ500字。

人の1年の営為を紹介するのに、やはり、140字では少々短すぎるように感じる。
500字必要かどうかはまた別の問題かもしれないが、新しくなった今年のミシュラン書籍版の余裕のある割付(後述)で、1軒140字は「もうちょっと文字数が入るのではないか」という感がどうしても否めなかった。

いずれにせよ、店の価値を考えるときに、シェフなど中の「人」に焦点を当てて決めていく、という大きな流れは、ミシュランであってもとどめがたいのではないかと思う。

判型のこと・組版のこと

 

これは、書籍そのものについての希望というか、こうなっていればというようなものなので、興味のない方は飛ばしてください。

今年は判型が変わって、昨年版よりも左右幅が大きくなった。
店舗の掲載のスタイルも変わって、1ページ2軒を上下でなく左右に1軒ずつ配置している。
見やすさ、情報量いずれの点からも昨年版の方が良かったように思う。
また、配列が今年から店の五十音順から住所の区ごとになったのだが、これは本当に店を探しやすいと言えるだろうか?
なぜなら、店を探す私たちが区ごとで区切って探したりしないからだ。
もっと日常遣いの店が書籍内にあってこそ地域別に配列する意味があるのであって、ミシュランで星を取るような店を、私たちは「台東区にある店がいいな」などと地域で選んだりはおそらくしない。このあたりは、できれば来年は変えてほしいとひそかに思う。


今年は、新型コロナウイルス禍におけるミシュラン2年目の刊行となる。
2021年は緊急事態宣言が出ていない時期の方がそうでない時期より短かったくらいだったので、1年間レストランが続いただけでもうすごいことだと思う。
その中にあって星がついたことの中の人たちの喜びは、自分のことのように嬉しく感じるし、そうでなかった人たちも、この2年間店を続けてこれたという価値は、決して揺らがないはずだ。

【タイトル】ミシュランガイド東京2022
【発売日】2021年12月3日(金)
【定価】3,498円(本体3,180円+税10%)
【ISBNコード】978-4-904337-32-5 C2026
【発行】日本ミシュランタイヤ株式会社
【判型】A5 変形

2021年版の感想はこちら↓

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