ミシュラン東京2021を読み解く 14年目・コロナに揺れたミシュラン

12月7日(月)、14年目のミシュラン東京2021年版が発表になった。

今年は、書籍の発売に先駆け行われていた出版記念パーティーの代わりに、日英2か国語で、ビデオでのオンライン発表となった。

対象地域は昨年と同じ東京のみ。すべて東京23区内。(都下は無し)
横浜・川崎・湘南地区はすでにwebでも掲載・更新を終了している。

全店リスト検索(ぐるなび海外版)
https://guide.michelin.com/jp/ja

ミシュランタイヤ株式会社のプレスリリース
https://media.michelin.co.jp/ja/2020/12/07/pr201207/

結果をざっくり紹介

まずは、プレスリリースのおさらい。

◆軒数(カッコ内は軒数昨年比)

3つ星 12軒(+1)
2つ星 42軒(-6)
1つ星 157軒(-10)
ビブグルマン 234軒(-4)

◆異動集計

◆★★★新3つ星 2軒
《昇格》
レフェルヴェソンス(港区/フランス料理)
茶禅華(港区/中華料理)

◆★★新2つ星 2軒
《昇格》
鮨かねさか(中央区/寿司)
久丹(中央区/日本料理)

◆★新1つ星 18軒
1つ星は、18軒が追加された。(降格分は後述)
《新規1つ星18軒一覧》
赤坂 おぎ乃
麻布 和敬
慈華
エステール
おでこ
御成門 はる
御料理 かつ志
寿こう
茂松
シノワ
シリーズ
すし家 祥太
鮨 すが弥
鮨 むらやま
波濤
ファロ
薪焼 銀座おのでら
L’intemporel

◆新ビブグルマン 35軒
新規搭載軒数は、昨年も35軒で同じ。
主なところでは(主に西洋系)…
アウダチェ
アニコ
アンファス
コジコメ
Si・Ba・Ki
バル・エンリケ
マ・キュイジーヌ
ミル
ユヌ・パンセ

◆サステナブルガストロノミーの新設
フランスなど他国ではすでに始まっていた「グリーンミシュラン」。
サスティナビリティを店として積極的に推進する言葉を発表している、また、サスティナビリティに対してポジティブなアクションをしている店舗が選ばれる。
日本のミシュランでは初搭載。
新年度は、新規3つ星のレフェルヴェソンスをはじめ、6店舗が選定された。

◆料理カテゴリは38項目
カテゴリは昨年から1つ減で39→38。
モロッコ料理が追加になった(新規ビブグルマンのエンリケマルエコス)。
ステーキハウスとタイ料理の各1軒が搭載されなくなったのと連動してカテゴリがなくなった。

今年のミシュラン東京関連の報道で最も大きな話題は、2軒の3つ星の誕生だった。
新3つ星となったレフェルヴェソンスは2012年に1つ星で新規掲載されてから3つ星になるまでに10年しかかかっていない。
また、茶禅華も初回が2018年にいきなり2つ星で搭載、そこからわずか4年での3つ星昇格となった。
中国料理で日本で3つ星が出たのは初めてだ。

中華といえば、今年は新規の1つ星の3軒も前評判が高かった。
ShinoiS(シノワ)」の篠原裕幸さんと「慈華」の田村亮介さんの料理は、オープン当初から誰に聞いても完成度の高さをうかがわせるものだった。
シックな内装、おまかせコースのみ、練られたコース構成。
昨年、新しい中国料理店が多くオープンしたにもかかわらず、価格帯や料理のスタイルなどから星にもビブグルマンのカテゴリにも微妙にはまらない店が多いと書いたが、その思いを払拭させるような新しい星となった。

ミシュランを読み解いてみてわかること

ミシュランは、セレクションの動向から何が読み取れるかについて表明することはない。
発表されるのは、星の数だけだ。
しかしガイドブックを丹念に読み込めば、行間からわかることはいろいろある。
それを今年もここで読み解いてみたいと思う。

◆総評は変わってない店が多い
今回初めて気づいたのだが、ミシュランの総評、年ごとに全く変えてない店の方が多い。
星がついているお店の中の方々はむろんご存知だったと思うが、私は複数年分の総評をくらべて見ることがなかったので、これまで全く気付かなかった。
毎年表現を変えるのはコストもかかるし誤植のリスクもある。ミシュランは、それよりは調査そのものにコストをかけるという意思表示なのだろう。

たとえば今年3つ星になったレフェルヴェソンスと茶禅華のうち、茶禅華はレストランにつけられた総評を全く変えてなかった。
そしてレフェルヴェソンスは全部書き直され、明らかに3つ星にしたことへの熱量が足されていた。
この2軒に何か差があったのだろうか?

いや、ないだろう。

もしそうであるならば、昇格したお店だけくらいは、総評は変えた方がよかったのではと思う。
茶禅華でいうと、唯一変えられた箇所が「シェフが」が「川田智也氏が」と名前が入ったところだというのに気づいて、ちょっと笑ってしまった。
名前のとこだけ変えるんだ、と思って他の総評を見てみたら、ミシュランは3つ星の店だけシェフの名前を入れる内規におそらくしているらしい。他の店もすべてそうだ。

「ミシュラン調査員は毎年は来ない」と証言する店は時々あり、そんなことないでしょ、毎年来るでしょと思っていたのだが、その真偽はともかく、そう語る理由のひとつに総評が全く変わらないことはあるのではないかと思った。

一方で、ひとつ星を出すのに3回も4回も調査員さんが来たと証言するお店もあり、ミシュランは評価にはお金をかけているのだなと思う一方、書籍の編集にはコストはかけない方式なのだろう。

◆対象外・降格の店
当ブログを読みにいらっしゃる方の目的の多くは、実はこれかもしれない。
ミシュランが積極的に語らないことのひとつだ(海外のミシュランでは発表されているところもあった)。
しかしこの降格店のラインナップは、とくに今年は重要な示唆を含んでいた。

軒数・店名ともに集計した結果は以下の通り。
(間違いを見つけられた方は恐縮ですがご教示いただけると幸いです)

★★★3つ星
(対象外へ)
なし
(★★2つ星へ)
麻布 幸村

★★2つ星
(対象外へ)
初音鮨
Inua
(★1つ星へ)
豪龍久保
赤坂 桃の木
サンパウ
尹家
ドミニク・ブシェ

☆1つ星を失った店 …
31軒ある。(昨年は19軒)
いち
銀座一期

尾花
カーエム
西麻布 き久ち
クレッセント
料理屋こだま 
重よし
シャントレル
瑞雪
築地すず木
割烹すずき
赤寶亭
タテルヨシノ銀座
中勢以 内店
鮨 なかむら
すき焼割烹 日山
蘭奢待
鮨 あらい
シエル エ ソル
スブリム
アジル
栞庵 やましろ
すし家 一柳
ハインツベック
銀座 凛 にしむら
鮨まつもと
ヤオユ
ランベリー
神楽坂 阿部

星を失ったという言い方はふさわしくないかもしれない。
なぜなら、今年は閉店による異動が多かったからだ。

そういう意味で、今年はイレギュラーな対応がいくつか見られた。

◆まぼろしの1つ星
タテルヨシノ銀座。閉店が急すぎて、書籍への反映が間に合わなかった例だ。
書籍版には1つ星として掲載されている。
ウェブ版(クラブミシュラン)からはすでに削除されているが、PDFのプレスリリースや書籍、オンライン発表のビデオでも1つ星の軒数は158軒とされ、残ったままとなっている(タテルヨシノ銀座を抜いて、実際は157軒となる)。
閉店の発表が11月18日と書籍刊行直前だったため、反映させるのは間に合わなかったのだろう。

◆休業の店舗の星の維持
休業している店舗について、注記の上、星が維持された店舗があった。
シグネチャー(日本橋)。
書籍版では、調査期間中にこの店舗が休業していたことが記されている。
このような措置を私は初めて見た。コロナという事態でなければ、なかなか起こりえないことではないかと思う。
シグネチャーはこれを書いている時点においても休業中、12月はクリスマスと年末年始だけは営業するようだ。
休業しているのに星が維持されているというのは不可解な気がしなくもないが、調査できなかったのに星を動かすことはできないという判断なのだろう。

◆星を失った理由
星を失った33軒について調べてみた。
そのうち、閉店によるものとわかったものが7軒。
Inua
クレッセント
タテルヨシノ銀座
シエル エ ソル
アジル
ハインツベック
神楽坂 阿部

ご覧になってわかる通り、ジャンルに大きなかたよりがある。
7軒のうち6軒までがフレンチ・イタリアン・イノベーティブと西洋系のレストランで占められているのだ。これは偶然なのだろうか?
特に1957年から63年も続いてきたクレッセントの閉店は、往年のファンを嘆かせた。

店が閉店になれば、星は自動的になくなる。
ちなみに昨年(2020版)の閉店軒数はどうだったか。
それも今回調べてみた。
昨年星がなくなった24軒のうち、閉店が理由の店は確認できただけで3軒(ミッシェルトロワグロ・鮨ます田・中華うずまき)しかなかった。
それ以外の店は現時点でも営業しているのが確認できた。

なので、今年星を失った理由として、料理のクオリティ云々より、そもそもお店がなくなったことに起因する割合が、いつもよりかなり高くなっているのではないかと思う。

今年は、コロナウイルス感染症対策という名のもとに、世界中の飲食店が休業を余儀なくされた。
今年新たに1つ星がついた18軒についてさえもそれを感じさせる。
18軒はほとんど2019年より前に開業した店で占められており、2020年に開業した店は18軒中3軒しかなかった。

本当に、今年は飲食店にとって大変な年だったというのが、こういうところからもわかる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
先日、このツイートが、日本中を駆け抜けた。

ツイートの主はニース在住のシェフ、神谷隆幸さん。ご自身の店も現在一時休業を余儀なくされている。
このエールがこれだけ多くの人に共感されているということに、読んでいる側も励まされているような気持ちがあった。

どの店も今年できるだけのことをやった、その事実だけは、星の有無と関係なく、どの人も誇ってよいことなのではないかと思う。

【タイトル】ミシュランガイド東京2021
【発売日】2020年12月10日(木)
【定価】本体3,180 円+税
【ISBNコード】978-4-904337-48-6 C2026
【発行】日本ミシュランタイヤ株式会社
【判型】A5変形

2020年版の感想は→こちら

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