レストランは誰のもの?―移転後の81(エイティワン)

最近のレストランでジャンルを問わず増えているのが、プリフィクス(アラカルト無し)方式と一斉スタート方式だ。

かつてレストランは、分厚いメニューからめいめいが食べたいものを考え、季節や胃袋やお財布の具合を考えて料理を選ぶところから始まるものだった。それは真剣に楽しい作業だった。
そういう、メニューから料理を選ぶ場面が、最近は減ってきたように思う。

カルトブランシュ、つまりおまかせにすることは、食べ手にとって、自分の好みに応じて選ぶという楽しみを返上し、レストランの都合にある程度委ねることを意味する。
「今食べるべき食材を最もよく知っているのは料理人の方なのだから、そちらのセレクトに任せた方が間違いがない」という考え方もあるだろう。

また、アラカルトとコースの両方がメニューにあるレストランは、往々にしてコースの方がお得なことが多く、コースを選ぶことで、アラカルトよりお得な価格で料理がいただけるようになった側面もあったと思う。これまで廃棄していた余剰食材の分だって、長い目で見れば全体のコストにのっていたはずだからだ。

一斉スタートについては、レストラン側の作業の効率化のほかに、おいしく食べられる時間が短いものを頂けるというメリットもある。
出席者が一斉に同じものを食べるという習慣の出発点の一つには、これはまだ調べ足りないのだけれど、茶席における懐石(料理)の習慣があるのではないか?と思う。
実際に、京都には、祇園さヽ木さんや未在さんをはじめとして、一斉スタートの料理店がけっこうある。

「一斉スタート」をレストランが採用するようになったのは、上記のようないくつかの理由が背景にある。しかしそれはあくまでも「おいしく食べること」が目的だった。

それが最近、その目的と手段が逆転したというべきか、「一斉スタート」を食べる以外の要素に特化させたレストランが現れはじめた。

その最右翼が、永島健志さんのモダンスパニッシュレストラン、81だ。

81は池袋・要町に2012年オープン、つい先日9月9日に今の西麻布に移転してきた。
現在はディナーのみ、18時と21時と2回転、一斉スタートの形をとっている。

81は、要町でのオープン当初は比較的普通のレストラン形態だったのが、少しずつ今のような、食とエンタテインメント性を意図的に融合させたような形になってきた。客席(テーブル)の角度がキッチンを向くような配置になり、一斉スタートとなったのも途中からだったと思う。

永島さんは自らのディナーを「公演」と呼ぶ。
まず、出席者は全員同じ時刻に集合。
料金も一律、事前に徴収(25,000円・税サ飲料込)。
テーブル配置も、今回の移転で客席がコの字形となったことでより「公演」色が強くなった。

81_nishiazabu

会計後、明かりを落として真っ暗な黒一色の内装のマンションの一室に案内され、席に着いて、客席の前のドアが開くのを待つ。そのドアの向こうがキッチンだ。

今回のメニュー

今回は、秋の森の「枯れ」と「収穫」が全体のイメージとして提示された。

ポップコーン
燻製ハムと芋、ポルチーニの試験管スープ
チョコレートがけフォアグラのテリーヌ
トリュフの香りを詰めたカルボナーラ再構築
すっぽんのスープ
7種のきのこのアロス
サーモンのポワレとイクラと梨
鴨のロースト、じゃがいものピュレとコーヒーのパフ
土に見立てたチーズケーキ
コーヒーとミニャルディーズ
(この日にあわせて焙煎されたゲイシャ!)

81_amuse

81_amuse2

アミューズの芋のパリパリした香りとポルチーニの香りで森の入り口に立ってもらい、

81_rizo

ヤナギマツタケやサマートリュフなどのきのこのアロソで森の奥に入り、

81_salmon

川を遡るサーモンを頂き、

81_canard

炭焼き小屋で鴨のローストを食べる…というストーリーに沿って料理が出される。

ひと皿ずつに、永島さんによるこのような口上と食材の説明が入る。

81_nisiazabu2

最後は綺麗に片付いたキッチンにスタッフ全員が並び、食べ手が拍手で迎える。

食べることのみをこれほどラディカルにエンタテインメントに仕立てたのは、ほかに例がないのではないだろうか。

率直に言うと、この公演のような形式がレストランの形として受け入れられない人はそれなりにいるのではないかと思う。
何を食べるか、どのタイミングで食べるかがきっちり決まっている料理。
ちょっと違うお酒が飲みたいとか、もう少し食べたいなどというわがままは通じない。
何のためのレストランなんだ! と思う人もいるのではないだろうか。

しかし、レストラン以外のエンタテインメントに目を移せば、コンサートのような劇場型エンタテインメントはみんなこの形であることに気づく。
自分のわがままは通じない。
レストランにもそういう形があっていいのではという考え方も当然成り立つわけだ。
それは、いままで私たちが知っているレストランの楽しみ方とは、たぶん別物だ。

そして、81のオープンにともない、このような催し物も行われている。

金沢のギャラリーが、「料理の出ないレストラン」として2ヶ月間、永島さんの世界を体現する展示を行っているらしい。
このようなイベントを呼び寄せるのも、81のこのような形態と永島さんのキャラクターに強く共鳴する人がいるからこそだろう。

レストランはもちろん、おいしいものを食べることが本質だ。
しかし現代はレストランの形もさまざまで、おいしいものを食べさせることが唯一の目的だという考え方は、ひょっとして古くなりつつあるのかもしれない。

このような、食べ手の空間を束ね、一体感を出す一斉スタートというやり方を含め、今後もレストランにはいろいろな形態が生まれてくるのかもしれない。
そう考えると、「いま」の料理を食べる楽しみが、増していくような気がする。

81(エイティワン)
東京都港区西麻布4-21-2 コートヤードHIROO
080-4067-0081
18:00~ 21:00~
定休日 日曜日・祝日

投稿を作成しました 166

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連投稿

検索語を上に入力し、 Enter キーを押して検索します。キャンセルするには ESC を押してください。

トップに戻る