【2/23追記】アジアベストレストラン50の発表で、Gagganが3年連続アジアベスト1を獲得しました。
おめでとうございます。
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8年振りのバンコクは、相変わらず混んでいた。
カード会社マスターカードの「2016年度世界渡航先ランキング」 によると、2016年に世界で最も渡航者数が多かった都市1位はバンコク(2位はロンドン、3位はパリ)だそうである。
スワンナブーム空港は、ファストトラック用カードがないと、入国審査にずいぶん時間がかかるようになった。
だからなのか、BTSができても地下鉄ができても、以前に比べて渋滞度合いが緩和されたようには感じられない。
Gagganに向かうときに通るサイアム近辺は、最もひどい渋滞が起きる地区だ。
タクシーなんかに乗ったら渋滞に巻き込まれて、いくら取られるかわかったもんではない。
しかも前日、Khaoに向かうタクシーに手ひどくぼったくられた。目的地はGooglemapに落としてあって、メーターの相場も知っていたのに。
お店にはバスで向かうことにした。
Gagganに20バーツのバスで行った客なんて、そうそういないに違いない。
バンコクのバス停には路線も経路も書かれておらず、旅行者が使いこなすにはハードルの高いものだったが、今やGooglemapでバス停の位置も経路も通過頻度もわかるのである。
Google様々である。
Gagganはサンペレグリノアジアのベストレストランで、2015、2016に1位になった。インドのモダンキュイジーヌを標榜している。ガガン・アナンドシェフの出身地コルカタの料理がベースになっているといわれる。
この日はガガンシェフは不在だった。
ついでに、メートルさんのような全体を統括する人も不在。
1回転目と2回転目のはざまということもあり、店の中はバンコクの街と同じくカオス。
案内されたのは通常の席と席のあいだにしつらえられた、光の当たらない穴倉みたいな席。
すぐに変えてもらう。サービスの人に「団体さんに近いからうるさいよ」と渋られたが、ぜんぜん問題ない。
いまの時代、写真不可のお店ならともかく、レストランのインテリアで最も重要なのは、食卓にきっちり光があたることだ。
メニューは…
…絵文字しかない。
困った。
こんなんで、インド料理がわからない私たちが、22皿の料理について理解できるんだろうか?
結論からいうと、ガガンシェフの才能や味付けの的確さがよく伝わってくる料理だった。
フィンガーフードで味が眠いのがほとんどなく、バランスを崩す過剰なものもないのはすごいことだ。
突飛な食材の組み合わせでも、必ず落としどころにはちゃんと落としてます、という運動神経のよさ。
Gagganの料理は、見た目ではおいしいかどうかが想像がつかない。素材感がすべて消されているからだ。
百見は一食に如かず。
見た目でもメニューを見てもわからない味の正体を、自分の味覚だけをたよりに、ひたすらひもといていく2時間だ。
Kiss Me
これが最も、見た目と味が一致したメニュー。
カシス系のつるんとしたゼリー。サービス担当氏は、客がカップルと見るや、「食べる前にキスして!」と迫ってくる。驚いたのはそれでちゃんとキスして、スマホで撮影までしてもらっているカップルの多さ。日本人には無理だっつうの。
見た目で味がわからないもの。
Yogurt Explosion(写真右)
アルギン酸で固めてある感じの、よくあるつるんとしたヨーグルトゼリー。と思いきや、外側はヨーグルトで、中の液体はカレー味。
Charcoal
お皿も印象的な竹炭のスナック。中はスズキ。食べなければ中が何かわからない。
何かをずらしたもの。
Chutoro Sushi
上は中トロではなかった気がする。下はシャリではなくクッキー生地のようなもので、見た目だけが中トロ寿司。いわば「中トロに見えるが中トロでは無い」もの。
Akami Wrap
上の「中トロ」のあとにすぐ出てきたタコス。
こちらはマグロの刻んだものが入っていて、「中トロはあるが形は無い」もの。
日本料理インスパイアド。
Mango Wasabi Uni Sudae
ウニの手巻き寿司…ではなく、シャリの部分はマンゴー。
ここに醤油をおとしてもよさそう。
単純に味覚だけで話をすればそうなるが、どうしても日本人は寿司の味が固定観念としてあり、この組み合わせには違和感がある。しかし寿司を食べたことのない人ならば、マンゴーの甘みとウニのうまみが引き合っているのが違和感なく受けとめられると思う。
これも次のも、料理としては日本人としての味覚があるか、そして日本人としての味覚の固定観念を捨てられるか、その両方を試されているような料理だ。
Tomato Matcha
ティーセレモニーのセットをうやうやしく持って来る。
そして鉄器から注がれるのは赤い液体なのだから、抹茶だと思っていた日本人は確実に驚くだろう。
正体はトマトのスープで、粉末にわずかに唐辛子系の辛味。
味そのものはオーソドックス。
22皿のうち最初の13皿はフィンガーフードだ。
モダン北欧料理でも、最初の数皿は手で食べるスナックであることが多い。
それは料理の前の前哨戦のようなものという位置づけなのだが、この、手で食べる料理が多いことは、ここではまた別の意味を持たされているのではないかと、はっと気づく。
ここはインドだ。
最後の2品は、それぞれ別の意味で「ここはインドだ」を強く意識させるものだった。
Lambchop Rangoli
ランゴーリとは、インドで慶事のときなどに描かれる砂絵。
つまりこの料理は、ラムチョップではなく周囲の絵になったソースが主役なのだ。
Crab Curry Coconut Rice
お弁当箱で出てきた。
インド式弁当箱(ダッバー)だ。
この料理、以前の名前は「I want my curry!!」だったという。
インドでは、お弁当を各家庭からオフィスに配達するサービスが100年前から確立されており、
今も「ダッバーワーラー」と呼ばれる配達人が約5,000人いるそうだ(wikiより)。
ダッバーワーラーについては、この記事が詳しい。→エラー率わずか0.00000625%、驚異のインド式昼食配達システム「ダッバーワーラー」
つまりこのお弁当箱は、「あなたのためだけに作ったカレー」というサイン。
バンコクの中のインド、Gagganのカオスの中には、最後にちゃんと、こんなほろりとする仕掛けも用意してあるのだ。
Gaggan
Progressive Indian Cuisine
http://eatatgaggan.com/
68/1 Soi Langsuan,Ploenchit Road,Lumpini Bangkok 10330
+662-652-1700
18:00~23:00
無休