一期一会の15皿 2019

あけましておめでとうございます。
2019年に出会った料理のなかから、今でも鮮明に思い出せるものの備忘録を。

2019年に訪れた主な都市(1食以上食べた都市)
海外はソウル、香港、上海、シンガポール、デリー、パリ、サンチアゴ、メルボルン、イースター島、タヒチ、ヘルシンキ、レイキャビク、フェロー諸島

国内は北海道、山形、福島、栃木、静岡、新潟、京都、大阪、奈良、石川、岡山、広島、香川、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島

2019年は海外より国内移動が多め、それらのほとんどが初夏~晩秋に集中したため、この時期はひたすら食べていたような感じがする。
また、航空券の都合により、土日の2日間で熊本→京都→福島とつなぐなど、移動距離そのものが旅行の回数に比して多かった。
また、参加したイベントやコラボがどれも印象深く、お声をかけていただいた人との縁を感じる年だった。

海外5皿、国内10皿、うち4皿はコラボ関連。
掲載は順不同で。


リオネル・ベカ+アンドレ・チャンのコラボ(東京・7月)ニガウリとシリアル
モダンで洗練された料理が身上のふたりがひと品ずつ作るコースの、これはアンドレ作。
ワイルドライスのような粒だった穀類を鮒寿司のような乳酸発酵の酸味で調味し、食感の残るゴーヤと合わせた。
この料理そのものも素晴らしかったが、さらに印象を深くしたのが、この料理のために作られたノンアルコールビールとのペアリングだった。ゴーヤの皮を少量の砂糖で発酵させたのだそうだ。
果汁にも砂糖系の味にも似ていないが、料理と合わせた瞬間、ゴーヤの苦味が繋がるという新鮮な体験だった。

crony+JL Studioコラボ(東京・8月)SHROOM KUT TEH WINE
春田理宏さんとJimmyさんのコラボディナーは、フランス料理の越境感を楽しむイベントだった。フランスや北欧で修業した春田さんと、シンガポール出身で台湾在住歴19年のJimmyさん。
「SHROOM KUT TEH」は、つまりはバクテー。豚肉の代わりに鮑と椎茸を使ったで「バ」の部分が「SHROOM=マッシュルーム」に、「テ(茶)」が「ワイン」に置き換えられた。
豚の脂身の代わりにしっかり目の食感の愛玉のゼリーを合わせ、スパイシーな椎茸のダシのスープが、パクテーの豚のダシを思い出させる。
フランスと台湾の食材でバクテーに見立てて、しかも元のバクテーより洗練されていた。

藤尾康浩さんが料理を作る会(京都・6月)蕎麦・天ぷら
サンペレグリノ・ヤングシェフアワード(2018年)で世界一になった藤尾康浩さんが、修業先の京都・木山で料理を作る会。フランス料理が日本料理を経由して別の場所に着地する、不思議な感覚を味わった。
この「蕎麦・天ぷら」、蕎麦はかやの実ときゅうりと土佐酢のきりっとした酸味、天ぷらは奈良の大和当帰とそのそばに生えていたスイスチャードと鮎。天ぷらと蕎麦なのに、酸味と油の重ね方にフランス料理が透けて見えた。
藤尾さんにとっての日本料理は、技法ではなく精神性を会得するものなのだろう。

傳+The Chairmanコラボ(東京・5月)クエ・スイートチリ
傳とThe Chairman(香港)のコラボは、日本食材で作る広東料理の鮮烈さ、端的に言えば「ずるいんじゃないこの組み合わせ、このうまさは?」というものばかりだった。
この日は運にも恵まれ、サスエさんから望み通りの50kgのクエが手に入ったのだという。熟成7日、味が濃く雑味のないクエにスイートチリの辛さが載る。
香港には海鮮の良い食材はもちろん豊富にあるが、白いご飯に載せた蒸し物の味は本場の広東料理を突き抜けていた。

Le Clarence(パリ・3月)グリーンアスパラとモリーユ
ミシュラン2つ星のクラランス、インテリアはデコラティブで豪壮、対照的に料理はモダンで刺激的。目を開かされる新しさ、しかもどれもピントが決まっている。この日は増井千尋さんとシェフの特別料理をご相伴させてもらった。
食材の取り合わせのオリジナリティに定評があるクリストフ・ペレさんの、旬のアスパラガス。合わせるのはコック貝、モリーユ、ギリシャ製ソーセージ。サバイヨンソースに仔牛のジュの組み合わせにオレンジのコンフィが隠し味。

Borago(サンチアゴ・4月)仔羊のアサード
国土が南北に長いチリ全土から食材を採ったコースは、少数生産者が採集するチリ産の食材で、チリの自然の多様性がわかるしかけだ。
コチャユーヨ、シーアスパラガス、バターオニオン。酸味や苦味の強い現地食材。カボチャやタマネギなど栽培食材は見当たらない。
一方でメイン料理の仔羊のアサードは、と対照的に端正で淡く、野菜たちと好対照をなしていた。

Brae(メルボルン・5月)タコス
メルボルンからクルマで1時間半。自ら農場で各種食材を育てている。
料理はモダンで鮮烈だ。特に1つの料理ごとに合わせるノンアルコールペアリングは、ペアリングの可能性を感じさせるものだった。単体だと味は淡く、料理と一緒に口にすると突然両者の味が明確になる。
このタコス。コールラビをタコスに見立てている。フィンガーライムの酸味と海老のバランス、椎茸にエッグヨークにこんぶ茶の取り合わせ。合わせるドリンクはルートビア風味。こんぶ茶、ごぼう、アニスシード。苦味の要素がドリンクで補完される。

KOKS(フェロー諸島・8月)Cod roe and Root vegetables
昨年に引き続き2回目の訪問。(KOKS(フェロー諸島)終わりのない物語)うま味の強いタラとパセリのソースとアサリ。見た目も鮮やかな白と緑のコントラストが印象的だ。
フェロー諸島は魚介類の味と種類の多様さが特徴的だった。対照的に肉は羊のみで構成される。

KADEAU(ボーンホルム・8月)Scallop with horseradish
ボーンホルム島とコペンハーゲンの2店を展開する同店の、ボーンホルム島の方へ。
海を臨むロケーションとうらはらに、ここは森の食材を多く料理に入れる。食材の多さ、手数の多さに支えられた複雑な風味。パイン(松ぼっくり)ひとつ、ハーブ一つとっても鮮烈な香りが口中を満たす。
この料理は、KADEAUでずっと作り続けられてきた料理なのだそうだ。グラタンのように見えるが実際には冷たく、バーナーでこげたような部分はムールやニンジンを削ったものだという。見立ての料理だ。
ホタテにホースラディッシュにムール貝のだし。ミルキーで塩辛い、冷たいのに香る、意外性と相反性で印象に残った料理。

カンテサンス(東京・11月)タラの白子と香箱蟹の内子のソース
2年ぶりくらいの訪問。見た目がなんでもないようなシンプルな姿の下に、どれくらいの試行錯誤が隠されているかを感じさせる。この前菜は、クリーミーな白子に香箱蟹の内子をベースとした軽い酸味のあるソースに、フヌイユなどの緑の野菜、ホワイトセロリの食感とピーカンナッツの軽い苦み。味を重層的に重ねる感じが、モダンノルディック料理のような感覚を思い起こさせた。
日曜劇場「グランメゾン東京」(後述)でも主人公が試行錯誤していた料理。

サンパウ(東京・5月)ホセリート社のイベリコ豚プルーマのアサド
5月と7月に訪問。15年営業した日本橋を離れ、千代田区・平河町に移転して料理長も交代した。20年版ミシュランでも変わらず2つ星を維持したのはさすが。新料理長赤木渉さんと、それを支えるスタッフのチーム力のたまものだろう。
カタルーニャ料理をモダンにアレンジしたスペイン料理。「ホセリート社のイベリコ豚プルーマのアサド」は、カタルーニャの人にとって欠かせない豚肉を使ったスペシャリテ。ナッツ香の豚肉に火を浅めに入れる。付け合わせは桃と紫蘇のペーストを麺のように伸ばした遊び心のあるもの。
「プルーマ」は「翼」の意味らしい。

ラペ(東京・6月)スズキのマリネ
はや7年目でゆるぎない安定感を得たラペの、初夏の前菜。
神経締めしたスズキのマリネにキュウリを合わせる。ソースはグリーンマスタードとアンチョビマヨネーズ、ディルやコリアンダーの花を合わせる。柔らかいマリネ。昨年からさらにブラッシュアップされていた。

レストラン ラ クレリエール(東京・10月)北海道・仙鳳趾の牡蠣
3月と10月に訪問。ジビエ料理が代名詞のクレリエールだが、今回は初秋の北海道・仙鳳趾の牡蠣の前菜をあげたい。
牡蠣に注がれたソースと別に添えられたもう1種類の小さなスープ。ソースはソースとして牡蠣を食べるためにシトリーヌなどの酸味を足し、小さなスープは鶏のだしでゆでたゆで汁にブラックオリーブ。この日はどの料理も忘れがたかった。

両忘(高松・9月)マッシュルームと全粒粉パン
19年初訪問店のうち、もっと早く訪れておくべきだったと悔やんだ店。
15年オープン。若いシェフとマダムの二人三脚で、不器用とも見えるスタイルで直球のイタリアンを繰り出す。
マッシュルームを薄くスライスして全粒粉パンに載せたこのアミューズは、わずかに火を入れたマッシュルームの香りと、バターの乳成分とパンとの味のバランスに魅せられるひと品。フリットと炭火焼の二通りで出された2種類の魚料理も良かった。

サエキ飯店(東京・4月)鳩の丸煮
香港など数カ国で働き、広東料理の気取らない”まかない”を基調とする佐伯さんの料理は、現地をほうふつとさせるうまさ。
この「鳩の丸煮」は、醤油で煮込まれた甘辛さが香港さながらであとをひく。このとき頼んだ菜の花と春雨の煮物は、現地なら芥蘭と上湯で作るところを菜の花と白湯でアレンジしていて、繊細でかつ日本の季節感を感じさせた。

2019年極私的まとめ

ライター業と、(業務ではないが)このサイト運営、またTwitterInstagramなど、自分自身のアウトプット量をどれだけ増やせるか、より多く書くために生活習慣を見直した。
書くべきもの・書きたいものはたくさんあるのにアウトプットの速度が全く追い付いておらず、引き続き試行錯誤を続けるつもりだ。

ブログ移行
経緯はこちらに。すでに無料ブログでコンテンツを持っていたのがあだとなり、移転作業は想像よりはるかに難しいものになった。現時点でもまだ問題は残っており、その解決が今年の課題。
noteはこちらと並行して始めるか悩み中。

ドラマ「グランメゾン東京」解説
TBS系の連続ドラマ「グランメゾン東京」(2019.10~12放映)。木村拓哉演じるフランス料理人が、ミシュラン3つ星目指して再起をかける全11回の物語だ。
経緯はこちら(日曜劇場「グランメゾン東京」第1~11回見どころ解説・まとめ)に書いた通り、ドラマ各回の解説を1回につき1,500字程度でツイートした。
第2話あたりから、それまでやり取りのなかったドラマファンのかたに届いて、放映期間中の3か月でTwitterのフォロワーがそれまでの60倍の速度で増えた(3か月で+1,100人)。その反響の大きさは、今後レストランへ足を運ぶであろう潜在的な顧客の多さを思わせた。

ドラマを通じてレストランやフランス料理に新たに興味を持ってくれたこれらの人たちに、今後どれだけ実際のレストランに足を運んでもらえるかが今後の課題かなと思う。
微力でもその力となれればと思っている。

2020年も皆様が素晴らしい料理とともにあらんことを。
今年もよろしくお願いいたします。

昨年の記憶は→こちら


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