ソーシャルとしての食、2019世界のベストレストラン50

6月25日、2019年ベストレストラン50(以下ベスト50と表記)の結果が発表された。

今年の世界1位はフランス・マントンのミラジュールが初めて受賞した。
日本勢は、(11位)、NARISAWA(22位)の2軒。

conents
●授賞式の様子/日本勢の結果
●国別動向
●Best of Bestの創設がもたらしたもの
●Best50はおいしいお店ランキングという建前を手放した
●ソーシャルメディアとしてのランキング

授賞式の様子、日本勢の結果

2019年の発表はシンガポールで行われた。
「ワールド」の50としては初の、アジアでの授賞式開催となる。
時差がほとんどなかったことから、今年は、22時ごろからの発表を自宅でストリーミング視聴した。
受賞セレモニーは意外とあっさりと進むもので、いつもダイジェストだけ見ると、1位の店の感激にむせぶような場面のみが出るので、そういうイメージで見始めたら、そもそも関係者が会場入りしていないレストランもあり、50位からカウントダウン方式で1位まで粛々と発表され、シェフをはじめ関係者も淡々と壇上で盾を受け取っていたのが印象的だった。
壇上で喜んで記念写真を撮る人もいるにはいたが、総じてあっさりとしたものだ。

そのなかで今回もかなり感激の面持ちで壇上に上がっていたのが、日本の最高位となったの長谷川在佑さんだ。
は昨年17位でベスト50に初登場、今年はさらに上がって11位となった。
今年は同時にホスピタリティ賞も受賞している。

日本勢50位以内はほかに、NARISAWA(ナリサワ)が、昨年と同じ22位にランクインした。

事前に発表された50-120位は以下の6軒。(かっこ内は2018年の順位)

62.日本料理龍吟(昨年41位)
63.フロリレージュ(59位)
91.鮨さいとう(新)
93.La Cime(新)
107.イル・リストランテ ルカ・ファンティン(新)
120.スガラボ(新)

今年から発表軒数が広げられ、100位まででなく120位まで発表されるようになった。
昨年は50-100位までに日本のレストランは2軒だったので、見たところ、ベスト50アジアで評価された店舗がこちらにも反映され、結果として軒数がずいぶん増えたという感じがする。

国別動向

・今年の世界1位
フランス・マントンのミラジュールが初受賞した。
イギリスの「レストラン・マガジン」の主催で欧州偏重であったベスト50だが、意外なことに、フランスのレストランが1位に入ったのはこれが初めてだ。

例によって、国別の動きをおさらい。

・50位までの国別の軒数
昨年より3ヶ国増えて26ヶ国。
ここ数年、22ヶ国~23ヶ国であったので、今年の3ヶ国の増加はかなり動きが大きいといえる。
理由は「殿堂入り」の新設だ(後述)。

2019年の50軒
スペイン 7軒
米国 6
フランス 5
英国 2
デンマーク2
イタリア2
ペルー2
日本2
タイ2
メキシコ2
中国2
ロシア2
1軒 14ヶ国…シンガポール、スウェーデン、オランダ、ベルギー、ドイツ、スイス、オーストリア、スロベニア、ポルトガル、南アフリカ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、チリ
(2018結果は→こちら

昨年2018年の授賞式ホスト国スペインは、カン・ロカアルサックが抜けて新しく2軒が加わった。
ホスト国には評議員が訪れる機会が多いからか、ランクインする店の数は増える傾向にある。

イギリス、日本が50位までの軒数を減らし、昨年まで1軒ランクインしていたオーストラリアが消えた。
昨年20位にいたメルボルンのアッティカだ。
オーストラリアのメディアは早速反応、批評記事を書いていたようだ。
2017年には授賞式ホスト国をつとめたオーストラリア、さすがに2年後にランクインが0軒になってしまったのはショックだったのだろう。

Best of Bestの創設がもたらしたもの

今年は、ランキングに直結する大きなルールの変更があった。
これまで世界1位になった経験のある店が「Best of Best」、いわゆる「殿堂入り」でリストから外れることになったのだ。
毎年同じ店が1位になるマンネリ化を防ぐためだろう。

その結果、上位が例年より大きく入れ替わる結果となった。
「Best of Best」で対象外となって外れた昨年の3軒そのまま、新しい国のレストランが入ってきた形だ。

エル・ブリ(スペイン)5回
フレンチ・ランドリー(米国)2回
ファット・ダック(英国)1回
ノーマ(デンマーク)4回
アル・サリェーダ・カン・ロカ(スペイン)2回
オステリア・フランチェスカーナ(イタリア)2回
イレブン・マディソン・パーク(米国)1回

2002年から18回の開催で世界1位になったレストランはこの7軒。
同じ店が複数年で世界1位になっているからだが、これだけ重なっていたとは意外だった。

ベスト50はおいしいお店ランキングという建前を手放した

これまで、ベスト50が発表されるたびに、上位の固定化がマンネリ化を招くとして記事になっていたが、この「殿堂入り」というルールの創設は、これまでのセレクションの定義を根本から変えるものだと思う。

なぜなら、その50軒のなかに「世界一をとった最もおいしいとされている店は入っていない」からだ。

このリストが味覚の絶対評価のランキングであるならば、ここ数年の上位層の固定化は、その正確性が褒められてこそすれ、批判を浴びるものではないはずだ。

今年、殿堂入りという考え方を設けたことで、ベスト50は建前上でもレストランのおいしい順番だという考え方を捨て去ったといえる。
実態がすでにおいしい順番でなかったからこそ、世界1位になった店をランキングから外してしまえるのだ。

ソーシャルメディアとしてのランキング

この数年、ランキングに入る店のラインナップをずっと見てきて、今年いよいよはっきりしてきたことがある。
それは、今さらといわれるかもしれないが、この50軒の順番は、投票する評議員や主催者の「ここをおすすめしたい」という総意の強さの順番だということだ。

ある地域をしらみつぶしに調査して良い店を探すのとは異なり、評議員が実際に訪れて投票するという性格上、評議員が行きたい店として、そもそも複数人の口の端に載るほど、ある程度有名でなければならない。
誰も知らないような店が、いきなり上位に食い込むということは難しい世界だ。
推す人が多くなければランクインはしない。

なるべく広く世界中から、新しく、いまの時代を感じられるレストランや料理を薦めたいという評議員の総意。

「なるべく広く世界中から」というのがおそらくキーワード。
受賞するレストランの国の数が年を追うごとに増えているのが、その証左だ。

試しに、15年前、2004年のランキングをふりかえってみる。(「上位順位の固定化だけでは語れないかもしれない、世界のベストレストラン50」参照)
50軒の内訳は12ヶ国でいまの半分以下、イギリスとフランスの2ヶ国だけでなんと半分以上、28軒を独占していたのだ。
アジアのランクインは香港の1軒のみで、日本はまだ1軒も入っていなかった。
今のラインナップからは考えられない寡占ぶり。

ここをすすめたいという総意の多さで順番が決まるこのシステムは、言い方を変えれば、このランキングの目的は、まだ誰にも知られていないお店の発掘や顕彰ではないということだ。
逆に言えば、そこにこそ、従来からあるレストラン評価メディア、ミシュランやゴ・エ・ミヨの価値はある。

今回強く感じたのは、レストランの、と言い切るのが極端であれば、レストランを含む食のシーン全体のソーシャル化だ。

レストランを薦める、行ったことそのものが情報となって流通する。そしてそのことが重要な意味を持つ。
食を通じて情報が生まれ、食べることのみならず、料理を作ることを通じて人とつながる。
今回も、授賞式前後の料理人さんたちの交流やシンポジウム、前後に行われたコラボディナーなどのイベントが多く開かれていた。レストラン同士の、国をまたいだ交流も珍しくなくなった。
この方向は今後、より発展していきこそすれ、後退していくことはないのだろう。

昨年2018の動向は→こちら

全店リストは、例によって、ランクイン軒数の多い国順に。

WORLD’S 50 BEST RESTAURANTS 2019: full list:
(↓↑→は昨年との順位の相違、Nは新登場)

――――スペイン 7軒――――
3. Asador Extebarri, Atxondo (Spain)↑
7. Mugaritz, San Sebastian (Spain)↑
9. Disfrutar, Barcelona (Spain)↑
14. Azurmendi, Larrabetzu (Spain)↑ | HIGHEST CLIMBER AWARD
20. Tickets, Barcelona (Spain) ↑
30. Elkano, Getaria (Spain) N 2018年77位
32. Nerua, Bilbao (Spain) N
――――米国 6軒――――
23. Cosme, New York (USA)↑
28. Blue Hill at Stone Barns, New York (USA)↓
36. Le Bernardin, New York (USA)↓
37. Alinea, Chicago (USA)↓
35. Atelier Crenn, San Francisco (USA) N
47. Benu, San Francisco (USA) N
――――フランス 5軒――――
1. Mirazur, Menton (France)↑ | BEST RESTAURANT IN EUROPE and BEST RESTAURANT IN THE WORLD
8. Arpège, Paris (France)→
15. Septime, Paris (France)↑
16. Alain Ducasse au Plaza Athénée, Paris (France)↑
25. Alléno Paris at Pavillon Ledoyen, Paris (France)↑
――――デンマーク 2軒――――
2. Noma, Copenhagen (Denmark)N | HIGHEST NEW ENTRY
5. Geranium, Copenhagen (Denmark)↑
――――タイ 2軒――――
4. Gaggan, Bangkok (Thailand) ↑ | BEST RESTAURANT IN ASIA
45. Sühring, Bangkok (Thailand)N
――――ペルー 2軒――――
6. Central, Lima (Peru) → | BEST RESTAURANT IN SOUTH AMERICA
10. Maido, Lima (Peru) ↓
――――日本 2軒――――
11. Den, Tokyo (Japan) ↑ | ART OF HOSPITALITY AWARD
22. Narisawa, Tokyo (Japan)→
――――メキシコ 2軒――――
12. Pujol, Mexico City (Mexico)↑ | BEST RESTAURANT IN NORTH AMERICA
24. Quintonil, Mexico city (Mexico)↓
――――ロシア 2軒――――
13. White Rabbit, Moscow (Russia)↑
19. Twins Gardens, Moscow (Russia)N
――――イタリア 2軒――――
29. Piazza Duomo, Alba (Italy) ↓
31. Le Calandre, Rubano (Italy) ↓
――――英国 2軒――――
27. The Clove Club, London (United Kingdom)↑
33. Lyle’s, London (United Kingdom) ↑
――――中国 2軒――――
41. The Chairman, Hong Kong (China)N
48. Ultraviolet, Shangai(China) ↓
――――1軒 14ヶ国――――
17. Steirereck, Vienna (Austria)↓
18. Odette, Singapore (Singapore)↑
21. Frantzén, Stockholm (Sweden) ↓
26. Boragó, Santiago (Chile) ↑
34. Don Julio, Buenos Aires (Argentina) N
38. Hiša Franko, Kobarid (Slovenia)↑
39. A Casa do Porco, Sao Paulo (Brazil) N
40. Restaurant Tim Raue, Berlin (Germany) ↓
42. Belcanto, Lisbon (Portugal)N | NEW ENTRY HIGHEST EUROPEAN
43. Hof Van Cleve, Kruishoutem (Belgium) ↓2018_63位
44. The Test Kitchen, Cape Town (South Africa) ↑ | BEST RESTAURANT IN AFRICA
46. De Librije, Zwolle (Netherlands) ↓2018_51位
49. Leo, Bogotà (Colombia)N
50. Schloss Schauenstein, Fürstenau (Switzerland)↓ | SUSTAINABLE RESTAURANT AWARD

2019年50位から落選組(手前の数字は2018年度の順位)
1. Osteria Francescana, Modena BEST OF THE BEST
2. El Celler de Can Roca, Girona BEST OF THE BEST
4. Eleven Madison Park, New York BEST OF THE BEST
20. Attica, Melbourne 2019年84位
30. D.O.M. , Sao Paulo 2019年54位
31. Arzak, San Sebastian 2019年53位
35. Maaemo, Oslo 2019年55位
36. Reale, Castel di Sangro 2019年51位
39. Astrid Y Gastón, Lima 2019年67位
41. Nihonryori Ryugin, Tokyo 2019年62位
42. The Ledbury, London 2019年64位
44. Mikla, Istanbul 2019年52位
45. Dinner by Heston Blumenthal, London 2019年83位
46. Saison, San Francisco 2019年70位
49. Nahm, Bangkok 2019年69位

投稿を作成しました 34

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連投稿

検索語を上に入力し、 Enter キーを押して検索します。キャンセルするには ESC を押してください。

トップに戻る